PLAYNOTE パウロ・コエーリョ『アルケミスト―夢を旅した少年』

2007年04月06日

パウロ・コエーリョ『アルケミスト―夢を旅した少年』

[読書] 2007/04/06 13:56

以前読んだ『ベロニカは死ぬことにした』がズキズキと胸に迫ったパウロ・コエーリョという作家の本。古本屋で安かったので購入。

スペインで羊飼いをしていた少年が、ある打ち捨てられた教会で夢を見る。ピラミッドで宝物を見つけるだろう。ジプシーの占い師、王様、クリスタル商人、イギリス人の錬金術師などとの出会いを通して、徐々に「自分の運命を生きること」を学んでいく、という内容。

こう書くと、自分探しっぽくも聞こえるし、B級ファンタジーっぽい匂いもするが、読んでみればわかる、実にシビアに人間の生き方を描いた本である。良いファンタジーは良い寓話である。人間が、どのように自分の運命や心の声から目を背けているか、という点をくっきりと描いており、現代人にとって耳の痛い物語。

何箇所か抜粋。

老人「あの男も、子供の時は、旅をしたがっていた。しかし、まずパン屋を買い、お金をためることにした。そして年をとったら、アフリカに行って一ヶ月過ごすつもりだ。人は、自分の夢見ていることをいつでも実行できることに、あの男は気づいていないのだよ」
少年「羊飼いになればよかったのに」
老人「……パン屋の方が羊飼いより、立派な仕事だと思ったのさ。……結局、人は自分の運命より、他人が羊飼いやパン屋をどう思うかという方が、もっと大切になってしまうのだ」

……

「では、たった一つだけ教えてあげよう」とその世界で一番賢い男は言った。「幸福の秘密とは、世界のすべてのすばらしさを味わい、しかもスプーンの油のことを忘れないことだよ」

……

「おまえはわしに、今まで知らなかった富と世界を見せてくれた。今、それが見えるようになり、しかも、自分の限りない可能性に気づいてしまった。そしてお前が来る前よりも、わしはだんだんと不幸になってゆくような気がする」

本当にイイのは、こういう断片ではなくて、旅を通して少年が発見していく神秘の中身だ。「すべては書かれている(マクトゥーブ)」という考え方や、宇宙と自分の意志との関係の理解の仕方なんかは、神秘主義的とも言えるし、ちょっと大乗仏教的でもあるし、いずれにせよキリスト教的というより東洋的な感じがする。事実や情景を詩的にだが淡々と描写する筆致や構成は、ヘルマン・ヘッセの『シッダールタ』を思わせたし、内容的には『デミアン』なんかと通ずるところがあって、ヘッセ好きの自分の胸をぎゅうぎゅう締め付けるものがあった。

誰かの言葉のみならず、飼っていた羊たちやらくだ、砂漠そのものなどを通して、少年は世界の仕組みを理解していく。これは、書かれる意味のある物語だなと思う。要約すれば一行二行でまとめられちゃうようなことを、延々何百ページもかけて書いているような本が多い中、書かれる意味のある物語は極めて稀だ。しかも、言葉が美しい。よい本でした。

座右の書、とまではいかなくても(それは自分にとってはやはり『シッダールタ』であり『デミアン』であり『審判』だ)、本棚にずっと入れておきたい本。そんな本を100円で売ってくれるなんて、ブックオフも侮れないわ。

コメント

投稿者:猫道 (2007年04月12日 22:17)

そーいや、少年社中の第2回公演がこの「アルケミスト」を脚色したものでした。当時18歳の俺は秀逸な寓話にシビれておりました。

投稿者:Kenichi Tani (2007年04月13日 04:58)

そうなのですよ。寓話が、言葉のセンスもいいし、あとわかりやすすぎず曖昧過ぎず、いい感じなのです。

このエピソードを聞いて少年社中に興味が湧いた俺.