PLAYNOTE ハムスターを盗んでいった空き巣の話

2007年03月03日

ハムスターを盗んでいった空き巣の話

[雑記・メモ] 2007/03/03 01:45

今日、俺が、悲しい電話をとった帰り道、常磐線の車内で、昔話を思い出す。ハムスターを盗んでいった空き巣の話だ。

「盗られたものと言ったら、しいて言えば、ハムスターくらい。それがまた、酷い話で、マジで吐き気がするよ。あるんだよな、こういう話」

数年前、確か中央線の車内、三つ年上の先輩から聞いた話だ。

バイトから帰ってみると、部屋の中が片端からすっかり引っ繰り返されていて、引き出しや棚に収納されていたものはすべて床に撒き散らされていた。彼がいない間に、室内の重力が何度か上と下で反転を繰り返し、シェイクされてしまった。そんな感じの光景だったと言う。

幸いと言うべきか、金銭的被害はないに等しかった。貧乏学生の安アパートである。元より、盗られるようなものなど何もなかったのだ。通帳には一万数千円程度の金が入っていたというが、手付かずのまま、ご丁寧にテーブルのど真ん中に開いて置かれていたと言う。犯人にしてみれば「こんなはした金、要らないさ」と冷笑を誇示するためのパフォーマンスだったのかもしれないが、気味が悪い。

もう一つ、おぞましいものを見つけた。ベランダにガラスのコップが二つ、重ねて置かれていた。彼が飲食店からパクって来たもので、無個性な、どこにでもあるようなガラスのコップだ。よく見ると、下のコップと上のコップの間に、“茶色く濡れた脱脂綿のようなもの”が詰め込まれている。それは、彼が大家に内緒で飼っていた、メスのゴールデンハムスターだった。

大家には「誰か入った形跡があった」とだけ報告し、警察には届けなかった。

「通帳とハムスターを見ると、怒り、というより、怖かった」
「実害はなかったけど、精神的にレイプされたみたいな」
「ぶっちゃけ、ハムスターはちょっと持て余していて、あんまり可愛がってやれてなかったのだが、本当に悲しかった」

そんなようなことをその先輩は言っていた。

そのとき俺は、きっと自分が想像している三倍は生々しい体験だったに違いない、と思ったのを覚えている。人の想像力は、いつも現実の三分の一にも満たない。確かもう、四年以上前の話だ。

コップとコップの間に挟まる、茶色く濡れた脱脂綿。的確な描写なのだろうが、俺はうまく想像することができなかった。が、今日、何となくわかった気がする。あの頃の若かった自分の想像力は、時間と経験を吸い込んで、三倍以上に膨れ上がったのだろうか。濡れた脱脂綿。

コメント

投稿者:みあざき (2007年03月03日 23:09)

私が想像したくないことか、想像できないこと、があったんだとお察しします。
この、ハムスターのことも谷君におこった悲しいことも、回向、追善供養、祈ってます。
事が起こってしまった後に、できることが
後悔と祈りしかないって、なんて苦しいことかと思います。

投稿者:ゆらら (2007年03月05日 14:44)

ざわざわと、おぞましい感覚が足元から上がってきました。
それは……先輩にとって、トラウマになってしまいますよー!!
茶色い脱脂綿……うう。
そんなことをする空き巣の神経が、理解出来なくて恐ろしいですね。

投稿者:Kenichi Tani (2007年03月06日 03:18)

コメントありがとうございます。
このお話を書いてよかったなぁと思います。
自らコメントを返すのも野暮なこと、かな、と。

投稿者:ミ☆リ (2007年07月05日 20:01)

この日記を書いてもらってよかった。
人間の醜いこと。
腐った心そのもの。