PLAYNOTE 大平健『顔をなくした女―〈わたし〉探しの精神病理』

2007年01月18日

大平健『顔をなくした女―〈わたし〉探しの精神病理』

[読書] 2007/01/18 11:41

『やさしさの精神病理』『豊かさの精神病理』『診療室にきた赤ずきん―物語療法の世界』など多くの著作を持つ大平健医師の精神病診察事例集。診察室を訪れた患者たちのエピソードを詳しく紹介しながら、精神病理について堅苦しくなく記したエッセイが7つ収録されている。

タイトルの「顔をなくした女」のインパクトがあまりに強過ぎて一発で購入を決定したのだが、期待に違わずどれも強烈なエピソードばかり。「顔をなくした女」の患者さんは、田舎の狭い人間関係の中で統合失調症を発症し、ある日「ほほぼお、ほねぼお」とささやく「魔王さん」に頼んで顔を持っていってもらった、だから今、私には顔がない――と告白する。

「男が上人になった経緯」では、二十歳頃突然「自分は○○上人の生まれ変わりだ」と気付いてしまった男性が主人公。彼はその宗派の総本山を訪れ、管長さんの「ある対応」によって一度は症状が沈静化したものの、後に道端でリヒャルト・シュトラウスの『英雄の生涯』を偶然耳にし、再度発病してしまう。

他にもエピソードの奇想天外さ・過激さという意味では実に面白い読み物なのだが、それらを通して浮かび上がってくる人間のもろさ・弱さというものは、心を打つものがある。価値観の違う人間からすれば、そんなことで人格は崩れ去ってしまうのか、という驚きもあるだろうか、何となく理解できる事例に行き当たると、自分ももしかするるとあの時危なかったかもしれない、いやこの先同じように…、などと思い当たる節があったり。

一般に精神病って「わけのわからない」「奇妙なもの」みたいな、どことなく歪んだイメージが強いでしょう。でも、きちんと患者さんの生育歴や家庭環境、既往歴を知り、病状把握に基づいて病因を考えていくと、本当に普通の人が、ころっとかかってしまうものなんだ、ってことがわかる。大平医師は「自分がもし発病したらこの人に診てもらいたいな」と思わされるほど懇切丁寧で、こういう精神科医が増えて欲しい、日本の精神医学をとりまく絶望的な状況が変わって欲しい、と素直に思う。

精神病の本、と言っても肩肘はらず気楽に読めて、しかも一つ一つのエピソードが読みやすい。いい本でした。

コメント

投稿者:ゆらら (2007年01月18日 20:30)

この本、わしも以前から関心を抱いていました。
タイトル、インパクトありありですものね。
今回、谷さんのレビューを読んで、是非読んでみたい!!と
思いましたよー!!
叔父の病気について、何か分かるかも……と。
叔父の統合失調症については、家族内でタブー視されている
ので、いつも歯がゆい思いをしているんです。
田舎だから、周りの目を気にしているんだろうなぁ、とは
思いますが……

投稿者:Kenichi Tani (2007年01月19日 01:58)

統合失調症については書かれている文献の数も多いし、メジャーな病気だから調べやすいと思いますよ。担当医の方に話を聞くのが一番かとは思いますが。この本は病理そのものについて考えるというより、病理を通して人間の心を見詰めるような本ですね。