PLAYNOTE 中谷陽二『精神鑑定の事件史―犯罪は何を語るか』

2007年01月18日

中谷陽二『精神鑑定の事件史―犯罪は何を語るか』

[読書] 2007/01/18 11:01

ちょっと前だと宮崎勤、ついこないだだと宅間守で騒がれた精神鑑定の問題。何で鑑定医によって結果が違うんだ、そこに科学的客観性はあるのか、そもそも何で精神鑑定なんてものが必要なんだ、歴史的経緯は? などなど、様々な問題点について、精神鑑定を多く引き受ける筆者が、歴史上の様々な事件を紹介しながら説明している。

内容(「BOOK」データベースより)

異常な犯罪が起きるたびに話題になるのが精神鑑定。しかし、精神鑑定は期待されるように、出来事の真相を明らかにできるのだろうか。本書は、レーガン元米大統領暗殺未遂事件、多重人格者の連続殺人、哲学者の妻殺し等々、社会を揺るがせ、鑑定人を悩ませた有名な事件を取り上げる。貴重な資料や証言をもとに犯行と裁判の経過をふり返り、精神鑑定のむずかしさを浮き彫りにしながら、異常な事件を生んだ心の世界を探る試みである。

章立ては以下の通り。

  1. レーガン大統領を撃った男
  2. 演技する犯罪者
  3. ロシア皇太子襲撃事件のなぞ
  4. 大量殺人犯とガウプ教授の奇妙な関係
  5. 哲学者アルチュセールはなぜ妻を殺したか

レーガンを撃ったヒンクリーJr.の話に始まり、2章では夢遊病からビアンキとビリー・ミリガンという多重人格まで、3章では大津事件の津田三蔵を精神病理の観点から切り、4章では津山三十人殺しを導入にした上で、ドイツで9人を一夜にして葬り去ったワーグナー事件についてかなり詳しく報告・検討しており、最後には戦後の十二代目仁左衛門殺しと20世紀の高名な哲学者ルイ・アルチュセールについて記している。

精神鑑定の困難さや問題点について幅広く検討を加えているのは当然なんだけど、紹介されている事例自体がどれも超一流に面白い。

特にワーグナー事件は存在は知っていたけどネットではなかなか詳細な情報が得られず気になっていたんだけど、随分突っ込んで紹介されており興味深い。ワーグナーが知性・教養的にもかなり高いものを有しており、詩や戯曲を残しているということは全く知らなかった。犯罪者であるワーグナーが、パラノイア研究の礎を築いたガウプ教授との間に築いた複雑な関係は、単なる同情とか好奇心とかだけでは説明し切れない微妙なバランスの上に成り立っており、このまま小説にでもなりそうな勢い。筆者自身はこうした事例を単なる野次馬的関心に基づいて通俗的に読まれることには警戒を示しているが、それにしても面白い。

精神鑑定に対する考察もきっちり踏み込んでいる。世界における精神鑑定の歴史や日本におけるそれの講釈が簡潔にまとめられているし、制度としての精神鑑定についても国内・海外問わず広く紹介されている。問題点に対してどういう解決策が考えられ得るか、という点についてはやや手薄だけれど、精神鑑定を考える上でも、また犯罪における精神病理を考える上でも大変刺激的な本。

大変読みやすい本なのでおすすめ。