PLAYNOTE ジーン・ベネディティ著『スタニスラフスキー伝 1863‐1938』

2006年12月23日

ジーン・ベネディティ著『スタニスラフスキー伝 1863‐1938』

[読書] 2006/12/23 02:15

スタニスラフスキー研究の第一人者である筆者がまとめた、スタニスラフスキー評伝の決定版。上下ニ段組×471ページのボリュームで、彼の誕生から逝去までをくまなく辿る、スタニスラフスキーを学ぶ人の必読書と言える。

スタニスラフスキーと言えば、自伝『芸術における我が生涯』が有名だけれど、1920年代に、極めて悪い執筆環境で急いで書かれた同著はやはり彼の生涯を客観的に検討するという意味では適切な資料とは言えない。むしろ彼の当時の演劇論、芸術観を考える上で、一つの芸談として受け止めるのが正しいんだろう。

この『スタニスラフスキー伝 1863‐1938』は、現在日本語で手に入る評伝の中では間違いなくベストの一冊。彼の生涯を研究する妨げとなってきたソビエト連邦の体制が崩壊し、資料が揃い出した90年代の末に発行されたものなので、それまでの誤解だとか、あるいは過度の崇拝をしっかり抑えて、極めて客観的に彼の人生を眺めることが出来る。

スタニスラフスキーの人生を振り返ることは、すなわちロシアにおける近代演劇運動を振り返ることに他ならない。当時のロシア演劇事情を研究する上でも必読だろう。あちこちに当時の世界における演劇事情を垣間見せてくれる記述があって、スタニスラフスキー研究はおいといても面白いし、彼自身が俳優として悩み苦しみながら独自の演技術を開発・会得していった軌跡でもあるから、俳優の人が読んでも多数刺激を受けるだろう。前半、自分の演技に納得が行かず、試行錯誤を繰り返す彼の姿は、巨匠・偉人の実像である以前に一人の俳優の姿として共感を誘う。

難を言えばかなり長いこと(つっても一巻本だから一週間あればゆうゆう読める)、あと当時の演劇史の大体の流れを掴んでいないとしばしば理解不能であろうことが挙げられるが、それにしてもいい本。手元に置いときたいが、高い…。