PLAYNOTE 『DSM‐IV ケースブック』

2006年12月06日

『DSM‐IV ケースブック』

[読書] 2006/12/06 22:44

総ページ数約600。235もの精神疾患の症例が紹介されている。これが、えらく面白い(面白いと書くと不謹慎だが)。一つ一つがあたかも短編小説のようであり、きちんとした医学書であるにも関わらず、興味を揺さぶられることこの上ない。

DSM-IVというのは、「アメリカ精神医学会が発行している「精神障害の診断と統計マニュアル」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)「第四版」のこと。病因や心理を探ることで病気を判断してきた精神医学会の常識を180度変えて、逆に発現している症状を元に病名を診断する、というコンセプトに基づいて作られている(かぎかっこ内は「私家版・精神医学用語辞典」より引用)。「小さい頃性的虐待にあっていたようだから、心的外傷後ストレス障害」と原因から考えるのではなく、逆に結果としての症状が認められてから診断名を下す。例えば今挙げた心的外傷後ストレス障害(いわゆるPTSD)には次の三つの症状を呈していることが認定のための条件らしい。以下Wikipediaより。

  • 精神的不安定による不安、不眠などの過覚醒症状。
  • トラウマの原因になった障害、関連する事物に対しての回避傾向。
  • 事故・事件・犯罪の目撃体験等の一部や、全体に関わる追体験(フラッシュバック)

このように、具体的な症状を元に病気を分類し、診断するというコンセプトに基づいて作られたマニュアルがDSM-IV。で、今回読んだ「ケースブック」は、その名の通り実際の患者の症例と診断を紹介する本。

一つ一つの症例に見出しとして名前が付けられているんだけど、どれも医学書とは思えないほどユニークで、興味をそそる。「新しい顔」「殺しの契約」「思考するための食物」「11度目の妊娠」「磁気人間」「誰も赤ちゃんを叩かない」「ディスコのD嬢」「どろっとしたもの」「ポルポトの遺産」「ぼくのファンクラブ」「マクベス夫人」「よりよい生活は化学から」「夜の訪問者」「私はビシュヌ」…。よくできた短編小説のようだ、と自分が書いた意味がわかってもらえただろうか。

実際にあった例ばかりなので、想像力を働かせながら読むとたまらなく悲しい気持ちになってくる。精神の失調が、単に心の問題に収まらず、身体や生活にこうもありありと強烈なダメージを与えるのか、と信じられぬ思い。人格障害に関する項など、程度を軽くすれば自分や友人に当てはまりそうなものがごろごろあるので、読んでいて他人事ではない。

症例を紹介した後に、それに対する診断が併記されているのも興味深い。病名や症例の辞書的な意味を知っているだけでは意味がないが、それを個々のケースに当てはめてみせてくれる。

実は三年前に一度ハマって読みふけった本なのだが、今回あらためて手にとってみて新鮮な驚きを得た。世界で最も難解な迷路は、実は自分のすぐそこにあるのだね。