PLAYNOTE 桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

2006年11月16日

桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

[読書] 2006/11/16 04:28

以前本屋で衝動買いした『少女七竈と七人の可愛そうな大人』の作者・桜庭一樹の本。桜庭氏の本をもう一冊くらい読んでみたいと思って2chスレやはてなを調べてみたら、この作品がぶっちぎりで人気だったので買ってみた。

表紙絵を見ればわかると思うが(しかしすごい表紙だ…)、わっかりやすいほどライトノベルで、萌え萌えなアキバ系お兄さんが読むような本で、読み始めて10ページで購入を後悔し、萌えーな挿し絵が現れる度うんざりし、やっとの思いで読み切った(書店じゃなくてAmazonで買ってよかった)。少女の一人称形式というえらく読み易い形式であるくせに、こんなに読むのが苦痛な本はなかった。

が。

読み終わっての感想は、「やられた」の一言に尽きる。表紙絵や文体から立ち上るライトノベルのふわふわーっとしたぬるま湯的な空気がとにかく鼻につくが、実はそのピンク色の空気で煙幕を張り、その裏ではファンタジーをずたずたに引き裂くオチを用意している。裏をかかれた。

…ぶっちゃけオチ自体は半分も読まないうちに想像がついたのだが、用意した砂糖菓子の世界観に少しずつヒビを入れ、徐々に陥落させていく過程にこそ見るべきものがある。その最中に見せる強烈なフリークス表現は、正直、予想を遥かに上回るほど攻撃的で、かつファンタジックな耽美さを持っていた。中学生のときとかに読んでいたら、思うように魅了されていたんじゃないか、と思うと少し怖い。

極めてリアリスティックな少女・山田なぎさが手に入れたいもの、それは生活力や金銭、自立。彼女はそれを「実弾」と呼ぶ。「実弾」なんて単語を選んだのは、彼女が住む過疎の町の近くに自衛隊基地があり、近隣の子供たちでそこに就職するものが多いからだろう。実弾は、呵責のない力強さを持つ物として象徴的であると同時に、彼女の住む世界の中では自立力をも隠喩している。

なぎさの中学校に転校してくる海野藻屑というおかしな名前の少女は、なぎさとは対照的な夢見がちな少女であり、自分のことを「人魚だ」と触れ回っている。藻屑はかつて一斉を風靡したポップスターの娘であり、経済的にもなぎさとは対極にいるような女の子だ。なぎさは彼女の浮世離れした雰囲気や言動を「砂糖菓子」に例える。貴族のお菓子、綺麗なだけで腹の足しにならない「砂糖菓子」。

この辺の、純文学じゃーなかなか出て来ない表現が、単なる使い捨ての比喩で終わらず作品の骨格として機能し続けるところが素敵。こういう比喩のセンスって、ラノベ的と言ってしまえば簡単だけど、それよりもむしろJ-POP的な感じがする。『下妻物語』でも感じたが、現代の作家の言語感覚やスピード感に与えた影響力を考えると、純文学よりむしろ音楽や漫画・アニメ、娯楽映画やTVドラマといったサブカルチャーの存在が大きな意味を持っているのではないだろうか。

で、物語がどう転がるのかというと、そこだけは書けないので、物好きな人は是非読んでみて欲しい。砂糖菓子の弾丸は、撃ちぬけない。その名の通りのラストだった。

…十代中盤の人が一番すっと読めるだろうが、二十台に入った人間がラノベ的文化に触れ驚きと困惑を感じながら読むというのもなかなか面白いと思うよ。

コメント

投稿者:G (2006年11月16日 23:26)

んもぅ、やだなぁ~。
どうしてこんなに似たものばっかり読んでるのかね。
僕も「少女~」と併せて夏に読んだばかりです。
特に何にも考えないで読める本。いいよね。

投稿者:Kenichi Tani (2006年11月17日 01:39)

何!!!
身近で読んでる人なんてまずいないだろうと思ってたが…。
どこで知ったの、この作家??

ちょっと詰めが甘いなぁと残念な部分がそこここにあるけど、
いい読書体験だったよ。好きなテイストだ。

投稿者:G (2006年11月18日 00:31)

うちの同期の本の虫から借りたんだ。
もっと売れてもいいんだけどな・・・
と言われて借りたよ。
確かに、割と万人受けしそうな感じもするんだがなぁ。。

投稿者:Kenichi Tani (2006年11月18日 04:23)

いや、売れんだろ。やっぱりラノベな雰囲気は出過ぎているよ。挿し絵や表紙を不問としても。

展開や見せ方としては面白いけど、いわゆる純文学に比べるとキャラクターの抱えている心情や扱っているテーマが浅いとは思う。少女を殴ってしまう少年の心理や娘をアレしてしまう父親の心理なんかは、もっとねちねちドロドロと「ブンガク」できると思うんだよね。

それをしなかったからこそこういうスピード感ちゅうかエンターテイメント製ちゅうかが得られたんだろうけれど、活字中毒者層にとってはヌル過ぎるし、一般の社会人にとってはオタ臭過ぎると感じられるんじゃないかな。俺はこういう異形の赤子は好きだが。