PLAYNOTE リュカ.『vocalise』

2006年11月03日

リュカ.『vocalise』

[演劇レビュー] 2006/11/03 03:16

いろいろとお世話になる方々が関与しているので図々しくもプレビュー公演を拝見。王子小劇場にて。

「死」という重過ぎるテーマを真正面から扱い、弱く醜い大人たちを、静かに丁寧に、そして愛を持って描いていた。息遣いや鼓動まで伝わってくるような生き生きした役者の演技が素晴らしい。

ステレオタイプな言い方で至極恐縮なのだが、こういう静かな演劇を観るのは本当に久し振りで、退屈しちゃったらどうしよう、等とも思ったのだが、杞憂をさっぱりと拭い去ったついでに頭をひとつガツンとやられたくらい、良かった。

三幕構成で、どれもマンションの一室を舞台に、若めの男女が水面下の切った張ったをするお話。ギャーとかワーとか言わないし、包丁とかピストルとか出てこないし、ギャグらない。別にちっとも異常なことじゃないんだが、久方ぶりにそういう芝居を観たから、何だか逆に新鮮だった。

発見が遅れたために末期癌を患っている男は、妻を残し東欧へ一人旅立とうとしている。周囲の親しい友人を招きホームパーティーを催すが、死の色に久々の再開が汚されてはいけないと考え、また最後くらい楽しく明るい雰囲気をと考え、男も妻も爪先立ちの強がりで彼らを招き入れる。が、パーティーが進むにつれ、お互いに隠していた感情のほつれは少しずつほころび、対立が顕わになっていく…という展開。

目の前で展開される、どこにでもある市井の愛憎劇が、これほどの緊張感を持って俺の呼吸を止めにかかってくるとは! まるでその場に居合わせたかのように伝わってくる気まずさ、静かな怒り、壊れてしまった関係式。役者さんの演技が巧みである。強がっている演技、感情を押し殺している演技、それだけならきっと大根役者にもできるだろうけど、その裏にある感情までしっかりと伝わって来た。

演技スペースを2ブロックの客席が挟み込むタイプの舞台。これがよかった。額縁舞台でやっていたら、ここまで一体感は味わわなかっただろう。演劇の原初的な要素に「覗き見心理」とでも言うべきものがあると思う。苦しみ苛む王の心、その中を覗き見。破滅していく銀行屋一家の家庭、その中を覗き見。壁を感じさせない舞台組みのおかげで、まるで自分は居合わせてしまった不幸な目撃者のような気分になり、終始ドラマの動向に胸が締め付けられていた。

皆二十代後半か三十代前半かというような年齢設定だったが、一人として大人らしい大人がいない。誰にも迷惑をかけず一人で死にたい、という男の身勝手な見栄を友人たちが非難し感情をぶつけていくが、彼らもまたとても弱い子供であり、皆が皆、それぞれの精神的な脆さを露呈していた。大人になるってこういうことかもしれないね。理屈や道理を立てることは覚えるけれど、それだけなのかも。自分が愛情と信じている感情でさえ、時としてとても押し売り的なものだ。が、愛情や友情に対してシニカルになることもまた、とても子供じみた態度だ。そういうことを、台詞ではなく行動で描いている辺り、ずっしと来るものがあった。

しのぶレビュー@佐藤佐吉演劇祭2006レビューブログには、

もうすぐ死ぬと決まっている人に向かって「お前はなんでそんなに勝手なんだ?残される者のことも考えろ」なんて、よく言えるよな、いや、言えるわけがない、と思い、腑に落ちませんでした。

と書かれていたけど、俺は逆にそういう未成熟で身勝手で弱い大人たちの姿が、とても人間くさく愛らしく見えた。

カエデ役を演じた こいけ けいこ さんがとても良かった。すらっとした長身にショートヘアー。いつも優しく笑っていようとするのだけれど、その背伸び具合が周りにはとても心配。鴻崎役の池田ヒロユキさんは、空気の読めないエゴイスティックな正義漢を好演。仏頂面の彼が部屋に入ってくると、急に空気が不穏に淀み、素晴らしい存在感であった。林田マコト役の鈴木浩司さんも、ナイーブなお調子者というなかなかさじ加減の難しい役所を愛嬌たっぷりに演じていた。役者さんは皆よかったし、アンサンブルがまたとても綺麗だった。

物語にはもう一つのアスペクトがあって、この悲しい家庭劇を囲い込むもう一つのお話があるのだけれど、そういう構成的な工夫よりも丹念で精緻な人間劇に心動かされたので、ここでやめとく。久々に大人が見れるいいお芝居を観たな、という感じ。

関係ないですけど王子小劇場はとてもいい劇場ですね。何度も行ってるが、今回みたいなスタイリッシュな演出を観るのは初めてで、タッパの高さにすっかり惚れ込んでしまった。広さもあるし、ありゃあ何でもできるな。ゆくゆくいつかは自分で使ってみたい。

来週月曜日までやっているので是非どうぞ。特に、ちゃらっぽこに薄っぺらい学生演劇に辟易している大学生に是非観てもらいたい。

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コメント

投稿者:しのぶ (2006年11月03日 09:51)

トラバ、引用&コメントをありがとうございます。
ぜひ王子で作品を発表してね。楽しみにしてます~。