PLAYNOTE 永井愛作・二兎社『書く女』

2006年10月14日

永井愛作・二兎社『書く女』

[演劇レビュー] 2006/10/14 12:27
チラシ

敬愛する永井愛氏の新作。樋口一葉の日記と小説を元に、彼女の半生を描く。世田谷パブリックシアターにて。

みんな、永井愛はチェックした方が本当にいいよ。ウェルメイドで笑えるお芝居でありながら、ずっしり来る人間描写や社会問題を扱い、間違いなく日本でもっとも熟れた劇作家の一人であると思う。井上ひさしよりも感覚が「若い」感じがするから、高校生や二十代でも見やすいだろうし。

今までの永井作品とはちょっとテイストが違う感じが。まず、ガチガチの抽象舞台。障子の格子をイメージしたような、木組みのフレームが舞台一面を多い、それがまるで寄せ木細工のように移動し組み返られながら場転を演出する。鋭利で直線的なデザインなので、もしこれが金属素材だったら冷たく未来的なイメージを受けただろうが、材質が木であるため、全く違った見え方。近代化の波が押し寄せてはいるものの、まだまだ江戸を引きずっている明治・大正の東京のイメージ、といったところ。永井愛の舞台でここまでモダンなデザインを見るのは珍しい。

脚本も手触りが違う。多くの場合永井愛の本は、家族や学校、職場、大屋敷など、ある閉鎖的な場所にいる複数名の人間たちの関係性を描くというものだった気がする。主人公は一応設定しても、特に誰にも肩入れせず、人それぞれのドラマを描いていたが、今回はきっかり一葉にフォーカスされた脚本。

そのせいかいつもの永井愛で感じるような重厚さを感じず、やや残念。中心に据えられた一葉の悩みや苦しみや喜びも言わば「想定内」であり、物足りなさが。ただ、緑雨という嫌味な評論家が出て来てからがぐっと面白い。彼と対立するかと思いきや、意外にも波長を合わせしばしば彼を家に上がらせる一葉。二人が声を合わせて「くっくっく…」と笑うシーンなんかは、とてもよかった。緑雨を演じた役者もよかったなぁ。

わかってるんです、普段より楽しめなかった理由は。自分は寺島しのぶが苦手なのです。大の。彼女の出演作を見る度、役者としての計算が見えてしまって、萎える。あと、優しく柔らかい顔立ちをしているせいか、一葉やギリシャ悲劇や『マッチ売り』みたいな鋭角の役には合わない感じがとてもする。苦手だ。

「永井作品としてはちょっぴり不満」というだけで、面白い芝居でした。終演後、永井さんにお話を聞く機会もあって、いい夜だった。『ゴロヴリョフ家の人々』の再演を熱烈に希望。

コメント

投稿者:天藍 (2006年12月09日 16:16)

はじめまして。
冷静なレビュー、納得しながら拝読いたしました。
宅の感想文にてこちらの記事へのリンクを貼らせていただきましたのでご報告まで。

投稿者:Kenichi Tani (2006年12月12日 01:21)

コメントありがとうございます!こんな感想文でもいずれか様の刺激になるのであれば幸福です。
僕もたけくらべんとこではマヤと桜小路くんを思い出していました(笑)。

戦争への言及については、永井さんご自身が「一葉の手記を参考にした」「イデオロギーに関するところでは、一葉自身が記したもの以外をこちらで付け加えるようなことはしなかった」と語っていらっしゃいましたよ。永井さんは元々戦争について触れるつもりはそれほどなかったけれど、一葉の日記にいくつも言及があったため取り入れた、というのが真相のようです。

投稿者:天藍 (2006年12月20日 19:24)

は、反応が遅くて申し訳ないです。コメントありがとうございます。
>イデオロギー
ああ、一葉の日記に沢山言及があったのですか…。
一葉以外の人物の台詞として結構強調されていた印象があったもので。(永井氏はほかにどんな話をされたのでしょうか?気になります(^ ^)ヾ)

『ゴロヴリョフ家の人々』、どんな芝居なのかなあと思いました。

投稿者:Kenichi Tani (2006年12月22日 03:14)

えーと、永井さんのコメントもオフィシャルに発言されたものではないですし、僕の曖昧な記憶に基づいてあんまりここに書いてしまうのも躊躇われるので、他の話についてはごめんなさいです。

ゴロヴリョフ家の人々は数年前に新国立劇場でやったもので、ロシアの富豪の家を舞台に、それはもう濃密なお芝居でございました。原作があったとはいえ、日本の作家にこんな話が書けるのか、と。出版されたら是非買いたいです。