2006年09月26日
桜庭一樹『少女七竈と七人の可愛そうな大人』
渋谷PARCOの地下にある本屋は、普通の本はもちろんサブカル系や美術書も結構充実していて、たまにふと思い出したように立ち寄って「PARCOなのに!」とえらく驚き、しばし時間を食い潰されるのだが、この本もそこで見つけた。書き出しが素敵過ぎて、それに続く一話(一章)が見事過ぎて、このためだけに買ったとしても悔いはない。
以下、冒頭より引用。
辻斬りのように男遊びをしたいな、と思った。ある朝とつぜんに。そして五月雨に打たれるように濡れそぼってこころのかたちを変えてしまいたいな。
「たいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった」少女・七竈と、同じく「呪われた美しきかんばせ」を持つ少年・雪風、七竈を産み捨て旅に出た「いんらんの母」・優奈らを巡る、静かな物語。一読して分かる個性的な文章をたっぷり味わい、一気に読んだ。
遊び心があり、大胆で、ときどき古語が混じる独特の匂いを持った文章がとても良い。タイトルからして、もう、やられた。カバーイラストが醸す静かな狂喜と耽美を湛えたような雰囲気は、作品に見事にマッチしていて素晴らしい。
前半四話くらいは文章の密度がとても濃く、話のテンポも早いので、ここ最近味わえなかったような読書の愉楽を味わった。使い古された比喩や冗漫な会話、苛々する情景描写などもなく、とてもオリジナル。是非読んでみて欲しい。後半は展開がモタつきちょっとダレたが、その分七竈の心や雪風との関係の変化を丹念に描いており、悪い印象はない。前半のまさに辻斬りのような破竹の文章の方が個人的には好みだな。
少女・七竈の成長も関心事の一つだが、個人的には母・優奈の描写に特に心惹かれた。平々凡々な女が犯すじっとりと濡れた罪。だが彼女はその中で生まれて初めてアイデンティティを得、自分の生きたい生き方を発見する。そして腐っていく自分を見詰める様は、ちょっとゾワリとくるリアリティ。だから俺は、「辻斬りのように」と「五月雨のような」の二章が一番好きだ。
何のかの言って、これは成長の物語なのだな。尖った人たちばかり出てくるからちょっとエキセントリックだけど。七竈も雪風も変わっていくが、ここでもやはり母・優奈の成長が一番いい。何せ、彼女にとっての成長とは、老いていくことと、腐っていくことなのだから。
調べてみたらこの桜庭一樹という作家さん、女性なのだな。道理で。冒頭の艶っぽい一節や、それに続く女の情念は、真に迫ったものがあった。あと、ライトノベル出身の人らしい。これは会話や設定からほんのりラノベくささが立ち昇っており、何となくわかっていたが、ラノベの枠に収まらないこの個性的な文章力は、次の作品があれば是非読んでみたいと思わせる色と艶をしている。
自分は特に西洋の古典文学を読むのが大変好きなのだが、やはり母国語の若手作家は読まねばならぬ、と最実感。どれも知った言葉でも、言葉と言葉を組み合わせると、こんなに新しいエナジーが生まれるのか。それは古典にはないもの、そして現代的な主題なり描写なり台詞なり。読まねばなぁ。
面白かった。
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