PLAYNOTE 塚本晋也監督『双生児』

2006年06月04日

塚本晋也監督『双生児』

[映画・美術など] 2006/06/04 18:00

友人の薦めで鑑賞。原作:江戸川乱歩。塚本晋也という監督の作品、恥ずかしながら初めて観ました。

出演者の中に麿赤児の名前を見つけた時、「?」と思ったが、観てみて納得。暗黒舞踏とか、寺山修司とか、そういう世界を思い起こさずにはいられない強烈な色彩・造型感覚。これが楽しめるかどうかで随分この映画の評価は変わってきそう。純粋に映画的とは言いづらい、やっぱり舞台・舞踊の匂いを感じてしまう美術世界だ。まゆ毛剃りには自分はあまり抵抗はなかったけれど、一時が万事そういう調子で、非常にバンカラな画ヅラながら、日本的な怖さをしっかり汲んだホラーになっている。

社会の最低辺であり、普通に考えれば一番文化的に遅れているはずの貧民窟にあえて現代的な衣装やメイクを取り入れていたのは面白かったが、自分は少し違和感を感じた。あれが塚本晋也の作家性であるならば仕方ないが、乱歩と大正という出来あがった世界観を崩さずに描いても、狂気的な空気感は出せたはず。この辺は好みだろうが。

特筆すべきは主演の本木雅弘。役者冥利に尽きるであろう、凄まじく振幅の広い役柄で(そもそもニ役であり、そのニ役も二つで表裏を成している)、陰と陽、静と動、美と醜、汚穢と清浄、正気と狂気、それにあらゆる感情、すべてに乗っかって演技をしていた。見事に役者としてかぶいており、見事に俳優として別人格を演じ切っている。百点。

本木の妻役のりょうも好演。絵になる女だ。顔立ちも日本的だし、屋敷の陰惨に呪われた空気をしっかり担っている。竹中直人・浅野忠信あたりはカメオ出演なんだか客引きなんだかわからない程ちょろっとの出演だが、やはりあそこでハクもなくケレン味もない役者が出てきては映画が締まらない。重過ぎず軽過ぎず、いい存在感。麿赤児は喋らなければよかったんじゃないかな。

音楽もよかった。ホラーだなと思った。とは言え曲調も使われ方も下品でなかったし。

時間を忘れて観ることができたし、よい刺激になったが、大絶賛には至らなかった。何でだろう? 一つ思い当たるのは物語の運び方か。中盤までキリキリとキリキリと渦巻きながら張り詰めていった狂気感が、クライマックスでふっと抜けて、晴天の青空に感じるような狂気性とでも言うんだろうか、穏やかな狂気に着地したところで、自分は少しがっかりしてしまったのかもしれない。あれだけねじこびた画ヅラや音を出せる監督なら、もう一歩地獄に近い場所にまで踏み込んでみせて欲しかった。俺はね。

うーん。よい映画を観た、というよりも、よい表現作品と出会った。というインプレッション。日本映画面白いですね。