PLAYNOTE 石田衣良『池袋ウエストゲートパーク』

2006年05月25日

石田衣良『池袋ウエストゲートパーク』

[読書] 2006/05/25 14:00
池袋ウエストゲートパーク文春文庫: 本

「授業の暇潰しに何かないかな」と駈け込んだ古本屋で、200円だったので買って読んだ。今さら感ばりばりだが読まないよりいいかなと思い、一昔前の流行を追う。

驚くほど読みやすかった。講義中の合間合間に読んだんだが、ニコマ分の講義が終わる頃には全体の3/4を読み終わっている始末。ぐいぐい引き込む、というより、晴天の坂道でチャリをすっ飛ばしてるかのような疾走感で、ページを繰る手が早い早い。ミステリーってほど重厚ではないけど、展開が気になって次々読めてしまう。

語り口も非常にオサレ。たまに独特で新鮮な比喩表現が脳味噌をえぐるのがいいアクセントになっているが、読みやすさは損なわない。とにかく読みやすい一冊だった。漫画本の感覚で読めちゃうな。

でも少し、というか、すごく物足りなかった。エンターテイメント作品としては素晴らしい。が、解説やネット上の書評で言われているような現代をえぐるテーマ性のようなものは非常に希薄に感じる。

いや、うまく撫でているんだ、問題っぽい問題を、片端から。でも、こういうことを書くのはためらわれるけど、さらりとスケッチしているだけで、例えば売春にせよ麻薬にせよ少年心理にせよ、どれひとつ作者がそれについて懊悩している姿が想像できない。ルポルタージュ的で、文学がやれる類の、つまり、みっともないくらい前のめりに首を突っ込んで、泥沼の中をざぶざぶどちゃどちゃ音を立てながらもがいているような泥臭さ、必死さを感じなかった(ちょうどこの本の前に坂口安吾を読んでいたから、彼の「書かねばならぬ」という猛烈な執念に比して、石田衣良のスタンスをライトに感じてしまったのも、この印象を強める結果になっただろう)

それすらも現代的と言えば確かにそうなのかもしれない。売春について、麻薬について、思い詰めて悩み抜き脳味噌が液化するほど必死に考えてる人間なんか世の中にはいないのだから、これくらいの撫でるような感じがちょうどいいのかな、現代には。でもやっぱり、文庫本を手に取った自分が読みたいのは、エンターテイメントではなくブンガクなのだ。そう再認識した。

登場人物の個性を賞賛する向きも多いが、個人的には人物(吐息の温度や肌の湿度をまで感じさせるような、そして少しの破綻と混乱を内包した人格)というよりキャラクター(突出した特徴や際立った性格を持つ、いわゆるキャラクター)として見えてしまい、どうにも漫画的・アニメ的な印象を拭い切れなかった。

…俺の趣味が古いんだろうな。あと、結局俺は、純文学の穴に住む醜い虫だということだろう。

そういう純文学的な味わい方ができなかった点で俺が勝手に肩透かしを食っているだけで、日曜日の午後とかにジンジャーエールでも飲みながら読むには実にいい作品だと真剣に思う。でも俺はやっぱり、平日の夜中にじめじめ一人で読み耽り、気がついたら差し込んでいた朝日をじとりと憎む気分になるような、純文学が好きなんだろう、きっと。

文才、構成力、センス、スピード感。そういったところは素晴らしかった。