2005年03月06日
ダリオ・フォー『Accidental Death of an Anarchist』、ほか
イタリアの劇作家・演出家・役者・舞台美術家。1997年にノーベル文学賞受賞。あ、あと作曲もするそうだ。多才多芸にも程がある。
正直、名前くらいしか知らなかったんだけど、作品とバイオグラフィを読んですっかり感心してしまった。作品の持つ力と、徹底してペンで闘い続けたその姿勢に。こういう人物が実在した、ってこと自体が、まずちょっと信じられないくらい。
50年代から演劇・TVの脚本家として人気を集めていたフォーだが、大衆からの人気とは裏腹に、権力からは忌み嫌われ続けた。当時のファシズム政権に睨まれて劇場を追われ、カトリック教会からは冒涜的と非難され、右翼に暴行され、暗殺の脅迫を受け、挙句の果て、妻はファシズムグループに誘拐され、レイプされ…。
それでも社会悪を弾劾するために、デモを牽引するでもなくプラスチック爆弾を作るでもなく、ただペンを振るい続けたフォー。作り話にしたって出来すぎてるし、こんな人生を生きた男がいたってことにただただ驚く。
もちろん俺は伝記だけ読んで感動するタイプじゃない。それ以前に作品の力に打たれていたからこそ、彼の半生がよりリアルに伝わってくる。
まず読んだのが "Accidental Death of an Anarchist" 。イタリア本土を巡業しながらわずか二年間の間に50万人以上の客を集め、その後 Belt and Braces Roadshow Company によってロンドンのフリンジ(ロンドンの小劇場)で翻訳上演されて人気を博した後、当時不入りだったウェストエンドの劇場に買い取られ、キャストを変えて再演。フリンジからウェストエンドへの進出は当時としては全く異例のことで、半ば伝説的な作品となってるそうだ(レクチャーより)。
上に書いたようなバイオグラフィを読むとカタい政治劇を想像するかもしれないけど、この作品、「ファルス」と銘打たれているように実際はドタバタコメディ。俺が観たTV版のVTRでは本当にスラップスティック・コメディという言葉がぴったりな、騒がしくて馬鹿馬鹿しいコメディに仕上がっていた。随所に散りばめられた風刺的な台詞や物語のバックグラウンドになっているアナーキストの「事故死」が時たま皮肉な一撃を食らわすものの、政治劇というよりドリフか吉本新喜劇でも見ているかのよう。
しかし、その笑いもラストで突きつけられるシビアな「選択」の前に、グロテスクな色合いを帯びてくる。実に巧妙。ラストになって観客は、自分たちが笑いを浴びせかけていた社会風刺の中にあまりにも醜い権力者のエゴと汚濁を観て、背筋が凍る。あれほど痛切な社会批判を、ああも見事に笑いに包んで物語として仕立て上げるとは。感動した。
日本にも井上ひさしや三谷幸喜といった巧妙だが軽薄でない一流の喜劇作家がいるけど、フォーが社会問題へ投げかける視線の鋭さ、切実さは、ちょっと段違いだ。
次に "A Woman Alone" という短い一幕劇を。ものすごく変な芝居だがものすごく面白い。一方的な性のはけ口として、賃金を払わずにすむ家政婦としての女性の非人間的な扱いをユーモラスに風刺。何度も爆笑させられたが、やはり最後はグロテスクなまでの生々しさで問題を読者・観客に突きつける。いつも俺はヒステリックなフェミニズムを見てうんざりするんだけど、これは素直に読めたな。完全に面白いので自分でやってみたいくらい。翻訳も楽そうだし。
もう一つ "Media" も読んだけれど、これはエウリピデスの原作の方が断然良いし、"Accidental Death" や "A Woman Alone" にあったような巧みな劇的創意が感じられなかったので今一つ。5ページくらいの小品だしね。
ダリオ・フォーはコメディア・デラルテに強く影響を受けているそうだけど、その辺もすごく興味がある。最初は独白の即興からキャリアを始めたそうだけど、どんなものだか全く想像がつかない。何だ、独白のインプロって?? 日本語じゃほとんどリソースがないような状態みたいだけど、帰ったら調べてみようかな。
バイオグラフィなど
- Wikipedia: Dario Fo
- Nobelprize.org: Dario Fo - Biography
- Moonstruck Drama Bookstore: Dario Fo
- Authors' Calendar: Dario Fo
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