PLAYNOTE A. C. Bradley『Shakespearean Tragedy』

2005年01月21日

A. C. Bradley『Shakespearean Tragedy』

[読書] 2005/01/21 16:24
表紙
480ページもある

史上最も名高いシェイクスピア論。福田恒存が文庫版『マクベス』の解題で引用したりしていて部分的に読んではいたが、邦訳はないだろうと当て推量で放置していた(実は岩波文庫で出てた! 大変オススメ)。英文学の講義の参考文献として指定されていて読んでみたが、本当にもっと早く読んでおけばよかった。後悔。

日本でもシェイクスピアの作品は様々な訳によって出版されているが、イギリスでもペンギン版・アーデン版・オックスフォード版などを初めとして多種多様なテキストが発売されている。当然本文は(多少の編集上の差異はあれ)同じだが、イントロダクションとして置かれている解説と commentary や glossary などと呼ばれる詳細な脚注は編集者によってかなり異なる。いろんな版の解説を読んだけど、どれも学者気質の解説という感があって読んで面白いものは少なかった。

が。ブラッドレーは、もう読んで面白い。ともすれば埃を被りがちな活字の中のシェイクスピアのキャラクターたちを実に生き生きと解釈している。分厚い本なんだけど手元に置いておきたくて思わず買ってしまった。

「シェイクスピア悲劇の本質/構成」と題した一章・二章は悲劇一般を扱ったものとして大変示唆に富む節。アリストテレスの『詩学』以来高名な悲劇論としてはニーチェやヘーゲルのものがすぐに思い浮かぶが、いずれも悲劇を通して人間存在を論じており劇的効果や構成上の技巧が主題ではない。ブラッドレーはまさにその点を扱っており、シェイクスピアの劇作術のセオリーを考察するには理想的な副読書だ。

まだオセローとリア王の章が未読だけど、ハムレットとマクベスを扱った章も客観冷静でありながら独自のシェイクスピア論を発展させており、実に興味深い。ハムレットの遅延について、マクベスとマクベス夫人の関係性について、口を開くのがためらわれるような喧々諤々の問題についてブラッドレーは実に自信に満ちた返答をしており、これを頭から信じろというのではなく、これらの問題について考える際に是非読んでおくべき論考と思う。

ショーペンハウエルは「読書は人間の自立的・自律的な思考能力を殺す」みたいなことを言ったが(あいまい)、俺は本はどんどん読んだ方がいいと思うんだよ。シェイクスピア読んで、その感想や考察を語り合える友達なんて平成の世にほとんど見つからない。なら死んじゃった人たちと話せばいいじゃないか。

オックスフォードでの講義を元に起こしたテキストという性質のせいか、格調は高いが英語もさほど難しくないように思う。シェイクスピアを考える人に広くオススメしたい。百年も前に書かれた本だけど、シェイクスピアがまだ死んでいないように、この本もまだ力強く呼吸している。