PLAYNOTE J.B.プリーストリー『An Inspector Calls』

2004年10月13日

J.B.プリーストリー『An Inspector Calls』

[読書] 2004/10/13 16:00

『夜の来訪者』という相当アレな邦題がついている、J.B.プリーストリーの最も成功した戯曲の一つ。J.B.プリーストリーは劇作家としての他に、小説家、批評家、政治コメンテーター、ジャーナリストなど幅広い活躍を見せた20世紀イギリスの作家。『An Inspector Calls』は1946年にイギリスで初演され、1992年にスティーブン・ダルドリーの演出によって再演。丸々十年のロングランという、ストレート・プレイとしては偉業の大成功を収めた。

古い作品だし登場人物が中産階級ということで、こないだ読んだマーク・レイブンヒルと比べて遥かに読みやすかった。

娘の婚約を祝って祝杯をあげる幸福な家庭。父は工場のオーナーで元市長、来年の叙勲式でナイトの称号がもらえるかも…というところで、玄関の戸を叩く音がする。ゴールと名乗る警部補が現れ、先刻自殺したエヴァ・スミスという少女に加えられた家族一人一人の犯罪を暴露していく…というもの。

得てして探偵物は読んで面白く深きに欠くというものだが、プリーストリーは最後の最後で芝居全体の構造を揺さぶる「トリック」を用いてそこに一つの哲学を加えている。個人的にはキリスト教的な精神を強く感じたけど、1946年当時の政治動向も関わってるみたい。

興味を引いたのがト書き。1ページ目が丸ごと舞台セットのト書きになってるんだが、そこでプリーストリーは、基本的にはリアリスティックな舞台描写の中に、表現主義的ともとれる奇妙な指示を入れている。舞台は最初から最後までバーリング家の客間なのだが、幕ごとに少しずつセットの位置を動かせと言っているのだ。最後の「トリック」と併せて、これはプリーストリーの諸作に見られる「空間と時間の歪み」の顕著な例だろう。

読んでない人にはさっぱり、というレビューだけど、そこは探偵物の常、ネタばらしをしたら作品全体を台無しにしてしまう。この作品の場合「トリック」も台無し。『ゴドーを待ちながら』をこれから読むという人に「実はゴドーは結局来ないんだよ」と先に伝えてしまっては、自分の力でページをめくる意味を完全に剥奪してしまうというものだ。

基本的にはよくできた探偵物だし、最後のトリックもあって割と舞台化しやすそうな雰囲気。ちょっと古臭くてありきたりな匂いもするからやりたいとは思わないけど、十年ロングランしたというダルドリーの演出は見てみたかったなぁ。

近々再演されるだろう、みたいな根拠のない予測はネットで見たけど、今のところそういった情報はなし。映画もあるけど映画はクソでした。