PLAYNOTE サラ・ケイン『Blasted & Phaedre's Love』

2004年09月30日

サラ・ケイン『Blasted & Phaedre's Love』

[読書] 2004/09/30 17:02
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1995年1月にロンドンの Royal Court Theatre で初演され、その年のイギリス演劇界の話題をかっさらったサラ・ケインの処女作。ケインはハロルド・ピンターにその才能を認められ、二十世紀末のイギリス劇壇で最も有望な作家と目されつつも、わずか数本の戯曲を書いた後、1999年、28歳の若さで自殺した。

この作品に対する当初のリアクションとしては、デイリー・メール紙の「吐き気がするような汚辱の饗宴(disgusting feast of filth)」という言葉が有名。実際読んでみると、確かに凄い。レイプ、男色、カニバリズム(食人)、終いには「目玉を口で吸い出して食う」なんていう想像を絶する嗜虐が繰り広げられるが、そういった表面的な事象に捕らわれ過ぎると、デイリー・メールと同じような浅薄な評価しかできなくなってしまうだろう。

二回読んだけど未だに混乱してて自力であらすじを書く自信がないので、海外のサイトに乗ってたあらすじをベースに翻訳&ちょこちょこ加筆して紹介。

登場人物は三人。

  • 中年ジャーナリストのイアン(45)。人種差別主義者。末期の肺ガンに侵されている。
  • ケイト(21)。ちょっと知恵遅れ気味だが優しい心根の持ち主。
  • 兵士。名前はおろか国籍すら語られない。

「世界のどこにでもあるような高級ホテル」で物語は始まる。イアンはケイトを誘惑し、レイプし一夜を共にする。翌朝口論の末ケイトが去ると、突如兵士が部屋に乗り込んで来て争いになるが、またしても突如、部屋は迫撃砲で吹っ飛ばされる。

辛くも生き延びた二人。兵士は内戦の凄まじさを語った後、イアンをレイプし、イアンの目玉を吸い出して食べた後(兵士の恋人も同様のことをされて殺された)、銃で頭を打ち抜いて自殺する。

ケイトは戦場と化した街で拾った赤子を連れて部屋に帰るが、赤子は間もなく死ぬ。ケイトは赤子の死体を床板の下に埋め、ホテルの部屋を去る。盲目のイアンはホテルで孤独な夜を過ごし、舞台上で泣き、自殺を図り、うんこし、悪夢にうなされ、終いには飢えて赤子を掘り出して食う。イアンは赤子が埋まっていた穴に納まり、床板から顔を出したまま安らかに眠る。

臨終の後ケイトが舞い戻ると、死んだはずのイアンは口を開き、ケイトのもたらした食料を食べ、「ありがとう」とつぶやく。暗転、幕。

筋書きだけ読むとわけがわからん。が、それがこの戯曲の仕掛けだ。

上記サイトでも指摘されている通り、この戯曲には妙にリアリスティックな面と、妙に不条理、悪夢的、象徴的な面がある。物語はリアリスティックなホテルの描写とリアリスティックな二人の会話ではじまるが、兵士が乱入してから場所を喪失し、現実感を失う。そもそもイギリスに内戦などあったか? 清教徒革命があった、などと馬鹿を言ってはいけない。スナイパーライフルと迫撃砲は17世紀には存在しない。ケインは意図的に時と場を歪めたのだ。最後には悪夢的なシーンが連続し、死人まで口をきく(床から顔を出したイアンが喋るシーンはベケットの「Happy Days」を思わせる)

ベケットの影響はもちろん、俺はビュヒナーの影響を強く感じた。『ヴォイツェク』同様リアリスティックでありながらどこか悪夢的、夢幻的で、不条理劇とも取れるような。Wikipediaによればサラは『ヴォイツェク』を演出したこともあったそうだから、この直感もまんざら外れてはいないだろう。

今となれば冷静にあれこれ分析もできようが、読んでる最中は混乱しっ放しだった。その過剰な暴力性と筋立てのなさに。が、ケインはこう語っている。

「人生における暴力はドラマティックな筋立てを持たずただ単に起こるもの、怖ろしいものである。この劇における暴力も、それと同じだ」
"acts of violence simply happen in life, they don't have a dramatic build-up and they are horrible. That is how it is in the play".

今さらアリストテレスのミュートス説なんか信奉している人もいないだろうが、確かに『Blasted』は筋立てのない現実の不条理を凄まじい毒々しさで語っている。

彼女の戯曲を正当に評価するだけの英語力は俺には備わってないと思うが、しかしすごい作家がいたもんだな。同時収録の『Phaedre's Love』と併せて、久々に読んだことない類の戯曲が読めた。夭折は何としても惜しい。

コメント

投稿者:しのぶ (2004年10月02日 12:12)

私は「4時48分サイコシス」を観ました。
http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2004/0106224429.html
こういうプロジェクトで。
http://www1.odn.ne.jp/sarah_kyoto/main.html

・・・「BLASTED」の方が相当怖いね・・・。

投稿者:Kenichi Tani (2004年10月02日 14:39)

しのぶ!こういうときにトラックバックって使うんだぜ!『BLASTED』観てみたいなぁ。できればイギリスで。

投稿者:しのぶ (2004年10月02日 16:10)

え????意味わかってなーーーーーーーいぃ!!
や、やってみるよーん。
わかってないけどーっ。
『BLASTED』はあらすじを聞く限りでは、できるだけ観たくない・・・。