PLAYNOTE ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』

2004年08月14日

ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』

[読書] 2004/08/14 16:48
表紙カバー
税込860円

「チェコ出身のヨーロッパ最大の作家」と裏カバーで大袈裟に称えられているミラン・クンデラの有名な作品。数年前に深夜のBSで映画を観た。映画も有名。

おもしろかった

面白かった! 「プラハの春」をバックグラウンドにしているとはいえ政治的な視点はほとんどなく、ひたすらに四人の男女と一匹の犬をめぐって描かれたラブ・ストーリー。

筋書きだけ読むと昼ドラみたいに陳腐だが、作者の筆致がそうはさせない。一つ一つの行為を象徴的あるいは形而上学的に解釈し、シンボリックに文章化しようとする筆者の徹底した努力のために、「存在」が読める。伝わる。この妥協を許さない怜悧な理知の筆は、本来不条理で一貫性に欠き混乱したものである人間の生を、何とか人間自身の主体性を約数にして割り切ろうという「あがき」が感じられる。

しばしば混ざる筆者の芸術論・人生論も読んで楽しい。荒筋だけ聞くと軽薄のようだけど、いざ読んでみれば真摯で重い小説。

偶然と運命と小説芸術

前半、二人の出会った偶然を、テレザはこじつけ気味なくらいに象徴的なモチーフを通して何とか必然、運命に解釈しようとするが、その心理に対し作者ははっきりと文章で肯定を与えている。ここが面白い。

すなわち小説が偶然の秘密に満ちた邂逅によって魅惑的になっているとして非難すべきではなく、人間がありきたりに人生においてこのような偶然に目が開かれていず、そのためにその人生から美の広がりが失われていくことをまさしく非難しなければならないのである。(69-70ページより抜粋)

また、筆者は書く。「必然は何も語らない、運命だけが何がしかを語るのだ」。この視点はリアリズムと合理主義の時代(その最たるものが共産主義だったわけだが)に世に蔓延し、人生をからっきし無機質で面白みのないものに変えた哀れな誤解と真っ向から排撃している。こういう視点が人生を文学的に豊かにすると俺は思うのだ。

「芸術が人生を模倣するよりも遥かに多く人生が芸術を模倣する。(オスカー・ワイルド)そして真実は人生の中にない。芸術の中にだけ存在する。

(以下、感想というよりほとんどフリーエッセイ)

紅茶とあぶ

僕はマグカップから紅茶を飲んでいる。それは小一時間ほど窓際に放置していたので冷え切ってはいるが、味もよく、香りも悪くない。僕は満足して最後の一滴を飲み干そうとするが、胸騒ぎがカップを置けと右手に対し警告の神経物質を送った。

そこで僕はカップを置くべきだったのだろう。だが僕は最後の一滴をきれいに飲み干し、カップの底に溺死したあぶの死体を発見する。カップを置いていれば、僕は水底に沈むあぶの死体を知ることもなく快く紅茶の摂取を終了することができた。

だがその未来を選択した僕は、自分がうまい、香りも悪くない、いいものだと思っていた紅茶が、実は反吐が出るような泥水に等しいものであったことを知らずに欺かれて生きる。それは決して幸福とは言えない。むしろ、最後に水びたしのあぶを発見して、吐き気を催す方がいいと思う。

実生活における敗北、小説における勝利

幸福とは円を描く運動、「繰り返しへの憧れ」とクンデラは書いたが、この定義は誰のためのものだろう? この定義は、幸福とは人が永遠に手に入れられないものであるということの裏書に他ならない。

この定義も、認識することによって人をちっとも幸福へと導かないタイプの知の一つだが、小説の中にいる僕たちはその認識によって実生活に幸福が訪れないことを知りサイドテーブルの灰皿の中に唾を吐く代わりに、一人静かに小説の中に潜っていくことができる。僕が浮世を疎んじ空想世界に惹かれていくのは、こういう瞬間にだけ感じられるある種の確かな勝利感-あえて幸福とは呼ぶまい、認識は苦痛でもある-のためだろうか?

実生活において敗北する、あるいはすで敗北していることを確かに知っているからこそ、虚構である芸術の中に人は真実を求めるのだ。

コメント

投稿者:しのぶ (2004年08月14日 17:51)

むずかしい言葉がいっぱいのサイトだなー。
映画は観ました。けっこう好き。

京都と大阪を旅行して帰ってきたの。
リフレッシュというか、進化した気分。
旅行って無理してでもやらなきゃだめなのね。

投稿者:Kenichi Tani (2004年08月14日 18:17)

俺は映画観たけど内容はすっかり忘れたよ!今度また観よう。むずかしい言葉がいっぱいなのは、読書の直後で脳が活性化しているからだ。

旅行はサイトのトップで読んで知ってたけど、進化したんだ。前に旅行キライって言ってたからどういう風の吹き回しかと思ったけど、楽しかったならよかったね。俺こんどチェコ行くよ。チェコとポーランド。

投稿者:**** (2004年08月18日 05:54)

おもしろいよね。最高だよ。
俺ムチャクチャ好きです。
主要キャラクターの思考形態に共感しながら読んだ。

投稿者:Kenichi Tani (2004年08月18日 13:04)

亡命したり200人以上の女と寝たり、やってることは俺たちの世界とかけ離れてるけど思考・心理は共感できるね。そこんとこすごいと思う。

投稿者:search engine optimization vancouver (2012年01月13日 07:09)

うーん誰がこのブログのロードに関する画像に問題が発生している?私は私の最後かどうかに関して、その問題はそれがブログだかどうかを調べるにしようとしている。任意の提案をいただければ幸いです。