PLAYNOTE 現代日本文学館『芥川龍之介』

2004年08月01日

現代日本文学館『芥川龍之介』

[読書] 2004/08/01 12:59
表紙
税込530円

こないだ同シリーズの『太宰治』を読んだばっかだが、今度は芥川龍之介を読んだ。収録作品は以下の通り。太字は特に印象に残ったもの。これで530円は安過ぎる。

羅生門、鼻、芋粥、或日の大石内蔵助、蜘蛛の糸、地獄変、枯野抄、奉教人の死、杜子春、秋、舞踏会、南京の基督薮の中、トロッコ、雛、六の宮の姫君、一塊の土、玄鶴山房、点鬼簿、河童、歯車

とりわけ秀逸なのは『歯車』。以前図書館で暇つぶしに読んで背筋を凍らせた覚えがあるが、読み返してみてもやはり凄い。時折文字と文字の間から溢れ出す狂気。芥川の他の名作とは趣きを異にし過ぎているだけに「代表作」とは呼べない気がするが、一番気に入っている。

芥川は物語を紡ぐ天才だ。ほんの三十分程度で読める短編ばかりだが、緻密なプロット、緊密な構成、精密な筆遣い、とにかく"密"な作家である。短編としての完成度という意味では、ちょっと国内では肩を並べる作家が思いつかない。

とはいえ、あまりにも深刻、しかめつらしいのも事実で、『南京の基督』、『一塊の土』、『玄鶴山房』などは珠玉とはいえ現代の読み手には少々重いだろうな、とも感じる。これらの作品に描かれた生存苦を、芥川自身は「生存苦の寂莫」「娑婆苦」などと呼び、己のことを「この世で地獄に落ちた」などと書いていたというが、現代の感覚では不必要に重過ぎると感じられるのかもしれない。天下泰平、経済安定の平成の世に生きていては、上記三作品の生存苦はあまりにも遠い。

『地獄変』、芸術家の感ずる不道徳な表現欲求をお伽噺の調子で皮肉る。俺良秀みたいなの好きだ。『一塊の土』、『羅生門』と同じく生き抜くために倦み疲れ麻痺し衰えていく心を描く。『藪の中』、とある殺人事件を軸に三者三様のエゴを告白体で生々しく提示。小説芸術を「人間を描くもの」と狭義に定義するならば、まさにマスターピースと呼ぶに相応しい名作。

天才っているもんだなぁ。漱石も鴎外も天才とは思わないけど、芥川と三島は天才だと思う。でも三島は好かん。芥川とは友達にはなりたくない。友達になるなら安吾と太宰。アブサン! アブサン!

コメント

投稿者: (2004年08月02日 15:54)

かっかっかっ。
英語に飽きたか。それもいい。
太宰、芥川は確かにおもしろい。が!日本の作家にもっと面白いのがいるぞ。それは、横光利一だ。そっちじゃ手に入れにくいかもしれないが、読んでみることをお勧めする。新感覚派、なんじゃーい。

投稿者:Kenichi Tani (2004年08月02日 17:00)

誰だこれ??横光利一は自分の不勉強が災いして読んでおりませぬ。中学校の国語資料集とかでよく顔写真を目にしてただけで。手に入り次第読んでみたい、けど、帰国後かしらん。覚えときます。

投稿者:pyonn (2005年02月28日 14:22)

椰子の花や竹の中に
仏陀はとうに眠ってゐる。
路ばたに枯れた無花果と一しよに
基督ももう死んだらしい。
しかし我々は休まなければならぬ
たとひ芝居の背景の前にも。

  とは、何を意味していると思いますか?

投稿者:Kenichi Tani (2005年02月28日 22:01)

僕が読んだときは単に芥川の人生への疲弊感とか生や信仰への皮肉、程度にとって受け流しました。細部より物語のダイナミズムを楽しむ方なので(笑)。が、直後に「けれども僕はこの詩人のように厭世的ではありません」とあるように、芥川はトックの厭世的な人生観の中に自分を描いていたんじゃないでしょうかね。

pyonnさんはどう思いますか?ぜひお聞かせ下さい。

投稿者:Kenichi Tani (2009年09月20日 03:51)

五年前の俺は随分と罰当たりなことを書いていたものだな。良秀は俺そのものじゃないか。